マウス行動解析室 利用方法
2015年2月19日更新
1) 行動実験を実施する際の前提条件
混交要因への配慮
事情が明白でない限り、一連の実験を実施することをお勧めします。何を調べたいのか、どの実験をメインにお考えなのかを元に、既出論文などを参考にされ、事前に、当施設での標準的プロトコルで良いのか否かのご検討をお願い致します。
当施設での受け入れ制限
当施設では、感染症に感染させたマウスは受け入れることはできません。実験期間中に、マウスに薬剤投与を行う場合は、薬剤投与を研究者の方が行うか、研究者の方が薬剤投与を行う方を指名した上で、実施してください。また、当施設では、薬剤の保管は行いません。薬剤入りの餌を使用するなど、特殊な事情の場合はご相談ください。
費用
京都大学医学部および医学研究科からのご依頼に関しては次の通りです。
- 平成30年度(2018年度)以降、マウスの匹数にかかわらず、1ケージ当たり、かつ1日当たり、以下の費用をご負担頂いています。これは実験を行うか否かに依存しません。
- 京都大学医学部内 310円/ケージ/日
- 京都大学医学部外 420円/ケージ/日
- 京都大学医学部内 520円/ケージ/日
- 日数は、搬入日から処分あるいは搬出の日までの日数で、搬入日および処分あるいは搬出の日を含みます。
- なお、利用料の清算は、4-6月、7-9月、10-12月、1-2月、3月の5期に分けて行い、各期の翌期初頭に徴収いたします。
- 支払の科目は、科研費、受託研究費、寄付金、運営費等が利用可能ですが、3月期については、原則、翌年度の運営費での支払いとなります。
2) 行動実験に対する準備
準備すべきマウスの数
行動実験によって得られたデータは、統計処理を行って、実験対象群と実験群との差違を検出します。その統計処理上の観点から、ある程度の個体数が 必要となります。個体数が多ければ多い方が良いのですが、実験の負荷やスケジュールを考慮すると、1グループあたり、実験対象群、実験群それぞれ 12~16匹程度が良いと思います。 実験する個体数が増加すると、実施に当たって人的負荷が増えたり、実験の実施日程が極端に延びたりすることがあり得ますので、ご配慮頂ければ幸いです。最大受け入れ可能個体数としては、実験対象群、統制群、それぞれ20匹、合計40匹です。
また、ケージ数が10を超えると極端に実験の効率が低下しますので、できるかぎり10ケージ以下での実施とするようご検討ください。
準備すべきマウスの特性
- 1) 個体識別
実験を行う個々のマウスに関して、個体識別を行う必要がありますが、その方法は、耳に穴を開ける方法で行います。基本的に、左耳に開けた穴の数(0~2)と右耳に開けた穴の数(0~2)で識別を行います。例えば、左耳に1個、右耳に2個の穴を開けた場合、「L1R2」として表記し、識別に使用します。
この耳穴を開ける作業は慎重に行ってください。時折、いただいた情報とは異なる耳穴に見えるマウスがいます。そのような場合、実験依頼者の意図されたgenotypeのマウスと一致するマウスであることは保証されなくなり、実験結果の信頼性が低下します。
図は耳穴の例です。右耳に1つ、穴が開けられています。
個体識別を他の方法で行っている、例えば数字が刻印されたタグを付けるような手法をとっておられる場合、実験期間中にタグが紛失する可能性があります。当施設に搬入前にタグを外すことをお願いしております。その後の個体識別については、当施設でイヤパンチを行います。 - 2) 週齢
一つのグループのマウスのうち、最も若いマウスが9週齢になった時点で当施設へ搬入し、10週齢になったときから実験を開始するというのが標準的な考え方です。 - 3) 雌雄
雌の場合、性周期が行動に影響を与えるため、基本的には行動実験に使用しません。理由がある場合には、当施設での受け入れも可能ですが、飼育室の条件など、配慮すべき事項もありますので、雌での行動実験をお考えの際は、必ず事前にご相談ください。 - 4) 戻し交配の世代数
遺伝子組み換えの場合、6世代以上の戻し交配を行ったマウスを行動実験に使用されることをお勧めします。 - 5) 飼育
基本として、同腹のマウスの実験対象群を2匹、統制群を2匹の計4匹を一つのケージで飼育します。ただし、事情がある場合は、この限りではありません。ケージの交換や移送などの際には、あるケージのマウスが他のケージのマウスと一緒にならないようにしてください。 - 6) 統制群の特性
基本的には、実験対象群と同腹の統制群を使用します。これは、混交要因となる離乳期以前の飼育環境要因や母親の飼育姿勢、方法に起因する要因などを排除するための方策です。事情により、実験対象群はうまく準備できたが、統制群を作成できなかったという事情もあるかと思います。そのような場合、統制 群を外部から購入する可能性も考えられますが、行動実験における混交要因について配慮されることをお勧め致します。この点についての事前の検討は、研究者ご自身で行ってください。
微生物検査
原則として、3ヶ月以内に実施された微生物検査の結果の写しを事前にご提出いただき、搬入の可否を判断させていただきます。ただし、京都大学大学院医学研究科内でSPFとして飼育されていた場合は、微生物検査の結果をご提出いただく必要はありません。
搬入方法
エコンアークによる搬入を基本とします。その際、飼育ケージが異なるマウスは、仕切り板で区切るなど、一緒にしないようにご注意ください。京都大 学大学院付属動物実験施設からの搬入など、徒歩で、かつ手持ちで搬入される場合には、紙箱(いわゆる「ケーキ箱」)での搬入を認めますが、その際には、紙 箱が外気に露出しないよう、ビニール袋などに入れて搬入してください。エコンアークによる搬入の場合、エコンアークの処分方法(そのままお持ち帰りされる か、当施設で廃棄処分にするのか)を搬入時までにお決めください。
情報提供
当施設では、ケージ数の管理や実験シートの作成等々を目的として、ファイルMouseInfoを用意し、それへの記入による基本情報のご提供をお 願いしております。 この基本情報には、個人情報に該当するものも含まれますが、管理に必要な場合を除き、外部に出ることはありません。なお、MouseInfoにご記入いた だく内容のうち、Experimenterの電話番号については、緊急事態が生じた場合などの際に連絡用に使用させていただくもので、できれば、在籍先や ご自宅の電話ではなく、Experimenterご自身の携帯電話をご指定頂きたく存じます。なお、緊急時ではない場合のご連絡には、 Experimenter宛のメールを使わせて頂くこととします。
実施したい実験の列挙
当施設での行動実験については、当施設で標準としているプロトコルがあります。これと異なるプロトコルでの実施をご希望になる場合には、事前にご相談ください。 場合によっては、マウス行動解析室のスタッフによる実施(代理実施)が行えないこともありえます。
3)行動実験に関する打ち合わせ、日程案策定
実施する実験項目の決定と日程調整を研究者の方と打ち合わせにより決定させていただきます。 基本的に研究者の方のご希望に合わせますが、行動実験における混交要因を考慮すると、基本的な実験は一通り実施される事をお勧めします。また、マウスへの負荷を考慮し、実験の標準的な実施順も定めております。
このあたりを含めて打ち合わせ、いつ、どの実験を実施するか、また、誰(研究者の方あるいはそのチーム員、もしくは当施設スタッフ)が行うのかを決定させていただきます。
この打ち合わせは、できればマウス搬入日までに行いたいと考えております。 なお、突発的な事象(装置の故障、実験担当者の急病、自然災害など)により、日程を変更する場合があることをご承知おきください。特に学習実験においては、マウスの学習進度により日程が大きく変動する可能性があります。
4)鍵の扱い
鍵の貸し出し
当施設では、セキュリティ上、建屋の玄関などの施錠を行っています。実験に来られる方には、必要な情報を頂いた上で、鍵をお渡ししています。次の 実験が予定されている場合であっても、それまでの実験が終了し、搬入されたマウスの処分の後は、すみやかに鍵の返却をお願い致します。
貴重品の持ち込み
当施設では、施錠を適切に行うことにより、セキュリティの確保を目指しておりますが、不必要な貴重品の持ち込みはご遠慮ください。
5)実験の実施
事前の打ち合わせに基づいて、実施担当者が実験を実施することになります。他の実験との関係や実験装置の状況、さらにマウスの状態によっては、事前の打ち合わせによる日程を変更することがあります。
6)データ解析
統計解析手法
データの解析は、目的によっても方法が異なりますので、それぞれの研究者の方で行ってください。
データの解釈
マウスの場合、例えばLight and Dark Transition TestとElevated Plus Mazeでは、共に「不安様行動」を見ることができるとされていますが、Light and Dark Transition Testでは明所への不安、Elevated Plus Mazeでは高さに対する不安というように、不安様行動の要因が異なります。さらに新奇環境への不安、恐怖あるいは好奇心も要因になり得ます。また、実験 に応じて、混交要因として、好奇心、視力、聴力、諦観、運動能力、マウスの週齢などもあります。これらの解釈に関しては、実験対象のマウスの離乳前の環境 や遺伝要因などの背景、実験の目的、測定群と統制群の差違が何なのか、他の実験の結果はどうだったのか、等々を考慮しなければなりません。 このような事情がありますので、当施設としては、個々のデータの解釈については、研究者の方ご自身にお願いしています。
7)実験結果の報告
実験に当たって、実験実施者を派遣していただけない場合においては、原則として、マウスの搬入前にご記入頂いたMouseInfoの中のExperimenter宛に、
- 実験で得られたデータ(数値情報のみ)を
- メールによって
- 実験毎にその実験の終了の日あるいはその翌業務日に
お送り致します。
実験実施者を派遣していただいている場合には、このような情報をお送りすることはありません。
なお、実験によっては、マウスの行動を記録した画像情報もありますが、データ量が大きくなるため、メールでお送りすることはいたしません。研究者 の方、あるいはその代理の方が当施設にお越し頂き、USBメモリや外付けハードディスクなどに記録してお持ち帰りいただくことになります。(マウスの数や 実施する実験にもよりますが、70GB前後の容量が必要です。)
8)マウスの処分
当施設では、不要となったマウスの処分は、頸椎脱臼により行います。その他の方法、たとえば還流固定を行われる場合、あるいは頸椎脱臼であっても脳などの臓器をサンプルとして摘出される場合は、研究者あるいはその代理の方が行ってください。
なお、持ち帰られる場合、SPF環境下に戻すことはできないと思いますので、その点はご了承ください。
また、マウスの処分は、研究者の方の許可を頂かない限り、当施設で行うことはありません。ただし、実験が終了したマウスに関する処分の方法と時期は速やかにご決定ください。