ご挨拶

日本におけるライフサイエンス研究は世界でも高水準を誇っています。また薬学部等が長年蓄積してきた創薬研究のノウハウも目を見張る物があります。今後これらをいかに利用していくかが現在のアカデミア発創薬研究に求められています。このような問題提起に対し、文部科学省は最先端研究基盤事業として「化合物ライブラリーを活用した創薬等先端研究・教育基盤の整備」を採択し、東京大学創薬オープンイノベーションセンターを核としたアカデミア発創薬拠点の全国展開を進めることになりました。

京都大学では、ライフサイエンス研究に関わる学部・研究所の層が厚く、創薬要素技術の開発や創薬標的分子の設定に直結する研究成果を恒常的に発信してきました。また今までも、薬学研究科では長年培ってきた創薬研究実施のための設備やノウハウを用いた化合物スクリーニング、医学研究科では探索医療センターにおける先端医療開発を目指したトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)や、産学連携による創薬プロジェクトを積極的に推進してきました。ここに東京大学創薬オープンイノベーションセンターの持つ大規模公共化合物ライブラリーを化合物探索支援基盤を通じて連携させ、「シードの発見から臨床まで」を通じて行うことのできる、「ワンストップ創薬拠点の確立」を目標に基盤整備を進めています。

創薬開発では「アカデミアでの展開が有利な局面」と「産業界との提携が有利になる局面」が存在します。京都大学「ワンストップ創薬拠点」ではアカデミアが有利な化合物シード探索及び最適化までを支える基盤として、事業の中心となる医学部・薬学部に支援基盤を設立しました。いままで実際の創薬にむけたノウハウの不足から、自らの持つ高度な知識や技術を創薬研究に有効活用できなかった多くのライフサイエンス研究者が、独自のレポーター系や細胞を用いた新しい創薬スクリーニングシステムを立ち上げ、新しいシーズの発見につなげられるような支援を目指します。同時に化合物最適化以降のステップでは、いかに産学間情報交流が推進できるかが鍵となってきます。我々が支援するアカデミア発創薬デザインのコンセプトを産業界につなげていくことができれば、今後の産業としての創薬研究にも大きく貢献していくことが可能であると信じています。

我々は「ワンストップ創薬拠点」がアカデミア・企業の双方を含む本学外にも開かれたオープンイノベーション創薬ネットワークの形成の場となることを我々は願ってやみません。アカデミア・企業を問わず、我々の提言に興味をもつ幅広い研究者の参加を歓迎いたします。

高橋 良輔 (医学研究科)